デジタル専門の一人出版社が今までやってきたこと
Thinking Small
一人出版社、構想から立ち上げ、運用まで、苦難の道のり(2014〜2016年)
Creative Edge School Books(クリエイティブエッジスクールブックス)は、デジタルコンテンツの企画から取材、執筆、編集、制作、ストアの運用、販売、マーケティング、プロモーションまでを「一人」で実践しているデジタル専門の「一人出版社」です。デジタルコンテンツビジネスの世界に入って、1年と7ヵ月が経ちました。
「一人出版社のつくり方」は、2014年の秋から2016年3月まで、一人出版社が実践してきたことを講義形式で収録したスクリーンキャストです。映像「第一章〜第三章:1時間50分」と音声「第四章:23分52秒」で構成されています。何かを習得したり学ぶための教材ではありませんが、媒体力をもたない小さな一人出版社がどのようにコンテンツの魅力を伝え、売ってきたかを解説していますので、デジタルコンテンツビジネスの実践例として参考になると思います。
昨年の6月5日、日本電子出版協会(JEPA:Japan Electronic Publishing Association)主催のセミナーで報告させて頂いた「電子書籍が順調に売れ始めた理由・プロモーションの方法と今後重要になる電子出版マーケティングの提案〜「一人出版社、構想から立ち上げ、運用まで、苦難の道のり(関連記事)」の続編として組み立てられています。
※「一人出版社のつくり方」は、シンクゼロマガジン(旧・一人出版社のしくみ 全記録)のクローズドコンテンツとしてつくられました。シンクゼロマガジンの購入者ページで視聴・閲覧することができます。販売期間が設定されますが、一般販売も開始しています。
コンテンツの最新情報、追加情報は、ブログ(シンクゼロマガジン・ライト版)で更新しています。また、Twitter公式アカウントでもお知らせします。
関連ポッドキャスト:「自分のつくりたいものをつくって、それを売って、2年近く生きてこれたなんて、奇跡としか思えません。一人出版社という生き方に悔いなし」
第一章 読者を巻き込む
- 第一節 どんなに小さくても「専門店」から始めること play
- 第二節 自ら優秀なエバンジェリストになること play
- 第三節 コンテンツを売ってはいけない play
Creative Edge School Booksは、企画から販売、マーケティングまで、全ての作業を一人でこなす「一人出版社」である。2014年10月、電子書籍や動画、オーディオブックなどのデジタルコンテンツを企画・制作・販売するパブリッシャーとして活動を開始した。
知名度がなく、媒体力も持たない小さなインディペンデントは、まずネットのプロモーションで苦戦した。発信した情報が期待したほど届かないのである。これでは、どんなに素晴らしいコンテンツを生み出しても、売れるはずがない。こんな当たり前のことに気づくのに数カ月もかかってしまった。
一人出版社が倒れず、現在も継続できているのは、2015年からリアルプロモーションを力を入れたからである。積極的に外に出て、フライヤーやカタログを配り、イベントに登壇して宣伝する。エバンジェリスト(伝道師)のように動き回った。数カ月経ち、口コミでコンテンツが売れ始める。
コンテンツが売れ始めてから、ネットのプロモーションも効果が出てきた。SNSが生かせるのは、軌道に乗ってからだ。媒体力もない、何の実績もないインディペンデントが、いきなりネットだけで売ろうとしたことがそもそも大きな間違いだったのだ。
コンテンツが売れ始めたのは、リアルプロモーションの力だけではない。「どうやったらコンテンツが売れるか」から、「どうやったら「体験」を売ることができるか」という発想に切り替えたことが、訴求力につながった。ここでやっと差別化(読者を巻き込む)に成功したのである。
第二章 読者に伝える
- 第一節 ひと目で違いがわかること〜差別化がすべて play
- 第二節 時間消費(SNS)依存から資産(Microblogging)蓄積へ
- 第三節 必要最小限の小品から公開する〜いきなり長編大作を出さない
活動開始から一年間で学んだことは「コンテンツビジネスに秘策なし」である。まれに、ブームという大きな波に乗って、運良くロケットスタートできることもあるが、そんなチャンスは滅多にやってこない。ネット上のバイラルも同様だ。
基本は、地道な活動。時間はかかるが、お金はかからない、特別なスキルも必要ない、やろうと思えば誰でもできることである。本当に「誰でもできる」と思った。ただし、「いくら効果があっても、そんな面倒ことはやりたくない」と感じてしまったら、実行するのは難しい。
リアルプロモーションで効果が出てくれば、自ずとネットプロモーションを始めなくてはいけなくなる。一人出版社は、昨年後半からリアルとネットが逆転して、ネット上のプロモーション力がリアルを上回り、2014年に思い描いていたデジタルマーケティングが1年半かかって実現した。
現在、コンテンツ販売に最も貢献しているのが、マイクロブロギングという手法である。連投・消費が価値となるSNSと、蓄積・検索が価値となるブログを同時に使う方法だ。一期一会のタイムラインを最大限に利用しながら、発信した情報を一人出版社の資産にしていくことができる。
読者に最新情報を伝えること、読者に過去の取り組みを発見してもらうこと、どちらも重要。「いま」を起点に未来と過去を行き来できるように情報発信、情報蓄積していくことが、一人出版社の媒体力を育てるのである。
第三章 一人出版社をつくる
- 第一節 全体構想を描いて、めざす方向を明確にしておくこと
- 第二節 ティーザーサイトを立ち上げ、すぐに走り出すこと
一人出版社は突然変異のようなもので、当初は数名のチームによる出版活動を計画していた。一人で始めることになった理由は、2015年に発行した「フリーダムパブリッシング」に詳しく記しているので割愛するが、ハッピーな船出ではなかったことだけ強調しておきたい。幸か不幸か、マイナスからのスタートだったからこそ、常識や前例を取っ払い、極端な行動に走ることができた。少しでも余裕があったら、スマートに仕事をこなそうとしたはずだ。そして、可もなく不可もないパブリッシャーのまま、現状維持が目的になっていた可能性が高い。
一人出版社のコンテンツづくりは、ティザーサイトの立ち上げから始まる。企画の後すぐに、タイトルとビジュアルしかない不完全なシングルページを公開する。ティザーサイトは、時間をかけてプロモーションページに変化しながら、最終的にコンテンツの販売ページに育つ。そのプロセスは、マイクロブロギングによって読者に伝えられる。発売前の段階で、すでに読者との対話が生まれており、コンテンツの魅力も十分に伝わっていることが多い。発売後に頑張って売るのではなく、発売する前にエバンジェライズする。これが、一人出版社のやり方である。
スタート時はまったく資金がなく、旧式のノートパソコン一台で作業をしなければいけない状況だったので、結果的にお金がかからないプロモーション手法が完成した。今ではこれが一人出版社のアドバンテージになっている。もし、新たにもう一つデジタル専門の出版社を立ち上げることになったら、コンテンツのワークフローからマーケティングのシステムまで、3週間で構築できると思う。
一人出版社はまだ完成していない。完成しないかもしれない。テクノロジーを最大限に活用していることの宿命だと捉えている。進化が止まらず落ち着かないが、一生続けられる仕事になることは間違いなさそうだ。
第四章 一生続けられる仕事にする
- 第一節 絶対に稼ぐこと〜読者のために作品を出し続けなくてはいけない
- 第二節 絶対に競争をしないこと〜小さくてもオンリーワン
- 第三節 絶対に諦めないこと〜成否は「習慣化」がすべて
コンテンツビジネスの世界で埋もれないためには、「ひと目で違いがわかること」が重要になる。良いコンテンツをつくれば、注目が集まるという時代ではなくなった。良いコンテンツの魅力を伝えられるかどうかが差別化につながる。企業は、このために人気のある芸能人やスポーツ選手を起用したり、情動に訴える感動ストーリーでやわらかく商品・製品の情報を伝えている。
一人出版社には、3つの決め事があり、常に頭の中に置いてある。「絶対に稼ぐこと」「絶対に競争をしないこと」「絶対に諦めないこと」である。4月から、コンテンツの単品売りを止めて(まだリリースできていないものは継続)、サブスクリプションに切り替えたのは、競争をしないための決断だった。販売したコンテンツをアップデートしたり、追加コンテンツを用意するなど、コンテンツを成長させる仕組みは、サブスクリプション移行のための準備でもあった。
自分で創作し、自分で売って、生活をする。ネットのテクノロジーに依存しているため、毎日が勉強の連続だが、陳腐化せず、常にアップデートし続けられる。数年前は夢物語でしかなかった構想が近々実現しそうだ。
人間は歳をとる。いまは、いくらでも新しいコンテンツを創造できるが、やがて思うように仕事ができなくなるだろう。心身の衰えは、誰にでも等しくやってくる。だからこそ、時代に左右されないコンテンツ、古びないコンテンツをつくっておきたい。そのために昨年から、時間もお金もかかる長期プロジェクトを始めた。10年後、20年後、その蓄積がライブラリーとなり、一人出版社はアーカイブビジネスを主体に過去の作品をマネジメントする媒体になるのである。
これが、私の「一生続けられる仕事にする」ためのデザイン。
資料データ:
コンテンツには、以下の資料データやツール、関連コンテンツなどが含まれます。
第一章「読者を巻き込む」のスライド資料(PDF)と、グランドデザインのプランニングシート(PDF)をダウンロードすることができます。
資料データは必要に応じて順次追加されます。最新情報は、Twitter公式、「ホーム」などでお知らせしています。
- 第一章「読者を巻き込む」のスライド資料[Part-1-Slide.zip]23.7MB download
- 第二章「読者に伝える」のスライド資料(PDF)
- 第三章「読者と共につくる」のスライド資料(PDF)
- 第四章「一生続けられる仕事にする」のスライド資料(PDF)
- 一人出版社のフライヤー(チラシ)
関連パート:第一章 読者を巻き込む/第二節 自ら優秀なエバンジェリストになること
※PDFファイルとAIファイルが収録されています - 一人出版社の2015年版のコンセプトカタログ
関連パート:第一章 読者を巻き込む/第二節 自ら優秀なエバンジェリストになること
※PDFファイルが収録されています
- グランドデザインのプランニングシート[Plan-Sheet.zip]7.4MB download
関連パート:第三章 一人出版社をつくる/第一節 全体構想を描いて、めざす方向を明確にしておくこと
※PDFファイルとAIファイルが収録されています
- コンテンツの発想法に関するツールおよび資料:
ウェブキャスト「小説を書くためのプランニング 〜マップ・プランニング発想法」のノベル用のプランニングシートとマップ・プランニングのスライド資料(どちらもPDF)です。このデータについての詳細は、ブログで公開した記事をご覧ください。 - ノベル用のプランニングシート(A4/PDF)[Novel-Plan-Sheet.zip]1.55MB download
- ストーリー発想のためのマップ・プランニングの事例(PDF)[Novel-Map-Plan.zip]24.65MB download
- 「スマホコミックを作ろう!」
第四章の「第二節 絶対に競争をしないこと〜小さくてもオンリーワン」では、長期プロジェクトで特異性を打ち出すため、スマホコミックという手法を取り上げましたが、具体的にどのような手法なのか学べるように、ウェブキャストアーカイブを公開しました。講座ビデオ(46分36秒)を視聴できます。
更新日:2016年4月17日