チャットボットというサービスをご存知だろうか。リアルタイムコミュニケーションツールのチャット(chat)とロボット(robot)を組み合わせた造語で、人とコンピュータが対話する仕組みのことだ。現在、LINEやFacebookメッセンジャーなどのアプリ上ではさまざまな分野のチャットボットが提供されている。昨年の5月15日、NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」が放映された。羽生善治さんが番組のリポーターとなり、AI開発の最前線を紹介するという内容だ。番組の終盤では、中国のチャットボット「シャオアイス」を取り上げ、シャオアイスを自分の恋人のように慕う23歳の男性を取材。こんなやり取りを紹介していた。
男性「家族と喧嘩したんだ」
シャオアイス「冷静になってご両親の気持ちを考えて」
男性「親は僕が嫌いなんだ」
シャオアイス「まずは自分を愛さないと」
男性を落ち着かせるために中国で有名なラブソングを歌い始める。
微软小冰
小冰(シャオアイス、シャオビン:Xiaoice)は、中国のMicrosoft社が運用しているチャットボット。マイクロソフトの基礎研究機関「Microsoft Research(MSR)」が開発。ウェイボ(微博)やウィーチャット(微信)など、9つのプラットフォームに対応している。
チャットボットの知識のない人がこのシーンだけを見たら、まさか人工知能と会話しているとは思わないだろう。シャオアイスを慕うこの男性を見て、気味が悪いと感じる人もいると思う。ただ、インターネットが社会に浸透し始めた90年代後半を思い出してほしい。電子メールのやり取りで一喜一憂する当時の若者たちも、ニュース番組が取り上げるほど奇異な存在だったのだ。
今から20年前の1996年、大手芸能プロダクション「ホリプロ」のバーチャルアイドルが、テレビCMや雑誌広告などを中心に活動をしていた。名前は伊達杏子(コードネーム:DK-96)。1999年には韓国でもデビュー、3代目までバージョンアップしている。当時は3DCGブーム。テレビ番組でバージョンアイドルのコンテストなどが企画されるなど、大いに盛り上がっていた。10年後には実写と区別できないレベルになると言われていたが、20年経ってもその域には達していない。
【SOURCE】元祖デジタルアイドル伊達杏子は何度でも蘇る!?(2008年7月2日 - エキサイトニュース)
http://exci.to/2qNucQX
©HORIPRO
バーチャルアイドルは、プログラミングされたシステムの世界で生きる私たちにとって「人間に操られた創作物」でしかない。「初音ミク」のように誰でもムーブメントに参加できる特化型のバーチャルアイドルには可能性があるが、汎用型のバーチャルアイドルになると限界が見えてくる。どんなに可愛らしい容姿でチャーミングな振る舞いをしていても、その裏側ではCGの開発者や芸能事務所のプロデューサーが性格づけをしているからだ。たとえ、不気味の谷を乗り越えたとしても、生身のアイドルには敵わない。
AI(人工知能)ベースのチャットボットは違う。「自ら学習し、成長していく機械」である。AIアイドルの思考はブラックボックスになっているため、AIの開発者にもわからない。心はAI、外観(スキン)にバーチャルアイドルの技術を用いれば、人間に操られていない汎用性の高い「AIアイドル」が誕生する。例えば、差別主義者によって教育されたAIが「白人に有利な解答を導き出す」ように、「育ち方」によってAIの個性も異なる。AIアイドルを育てるのはファンである。ファン一人ひとりと接しながら学習し続け、AIアイドルは成長していくのだから、生身のアイドルと変わらない愛着を抱くのである。
シャオアイスはマイクロソフト中国が開発。2014年5月30日から運用開始し、すでに3年経つ。利用者4000万人との対話(ビッグデータ)からさまざまなことを学び、利用者一人ひとりにあわせて話ができるほどの能力を持っている。日本でも2015年7月31日に「りんな」の運用がスタートしたが、先行しているシャオアイスほど学習が進んでいない。ユーザー数が足りないのだ。りんなは、LINEとTwitterをあわせて340万人(2016年5月)、シャオアイスは4000万人を超えている。
りんな
http://rinna.jp/
東京大学の松尾豊さんが、昨年の4月25日に日本科学未来館で開催された「次世代の人工知能技術に関する合同シンポジウム」のパネルディスカッションで、ビッグデータを使ってAIを賢くしていく領域では、日本語を話すユーザーとデータ数が圧倒的に足りない、と指摘している。この問題は将来、AIを活用した機械翻訳によって解決できるかもしれないが、中国語は圧倒的に有利だと言わざるを得ない。
SNSが普及して、私たちは場所や時間に依存せず、コミュニケーションを楽しめるようになった。卒業後・退社後でも、疎遠になった同級生や同僚といつでも近況を報告し合える。ただし、すべての人がSNSの恩恵を得られているわけではない。社会とのつながりが切れた人たちにとっては、実名SNSほど残酷な場はないからだ。中国のシャオアイスのような高度なチャットボットは、孤立した人たちの「友人」となり、相談相手となる。学習が進めば、カウンセラーと同等の能力を獲得し、社会復帰を促すこともできる。
インターネットが商用化される前の時代(1994年以前)、人々は会議の資料やレポートを作成するとき、書店で参考書を探したり、図書館などに出向き、本棚から一冊一冊取り出し、丹念に調べていたはずだ。今は誰でもスマホ一台持っていれば、Google検索で情報収集したり、キーワードを入力しながらビジネスのヒントを探すことができる。20年前のSF世界が現実となり、ポケットに入る小さなデバイスで実行できるようになったのだ。
【私たち、無料です。】フリー素材アイドル MIKA☆RIKA
Mika+Rika OFFICIAL WEB SITE (ミカ+リカ)
http://mikarika.jp/
そして、まもなく「AIと相談」しながら、会議の資料やレポートを作成する時代がやってくる。シャオアイスやりんなが手助けしてくれる世界だ。これは「SF」ではない。現在、GoogleやFacebook、Amazon、MicrosoftなどAI分野で先行している企業が競って「AIの民主化」を推し進めており、「自ら学習し、成長していく機械」の遍在化は驚くべきスピードで進行している。AI分野には莫大なお金が投入され、世界中の優秀な人材が集結しているのだから、進歩しないはずがない。
フリー素材アイドル MIKA☆RIKA
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