Creative Edge Productions Marketing

Creative Edge Magazine Zero Vol.01

電子書籍の未来は、ウェブの未来でもある

本は「モノ」である。ブックデザイナーは、書店という出会いの場から生活の中の読書、そして本棚に収められるまでをイメージし、トータルなエクスペリエンスを描く。広義のブックデザインは、システムシンキングにまで及ぶ。一方、電子書籍は「情報」である。変幻自在に姿を変え、あらゆるスクリーンに適応する。イーブックデザイナーは、浮動化する組版を操る魔術師だ。

今回は、モノとデジタルデータの特性を比較しながら「本」とその周辺を俯瞰してみよう。

電子書籍はモノではなく情報、手軽さで紙に勝る/ウェブブラウザーで読むストリーミングスタイルが主流になっていく可能性/この文字の読みにくさがゾクゾクくる/希少性で経済的な価値に変換する仕組みの難しさ/販売力がないと、そもそも情報が届かない/コンテンツとUIがきれいに分離している電子書籍/漸

電子書籍はモノではなく情報、手軽さで紙に勝る

== モノとデジタルデータの違いって意外と大きいと思いますが、そのあたりはいかがでしょう?

ブックデザイナーの松田行正さんが、デザイン誌のインタビュー記事で「立体になった時の姿を忘れず、本はオブジェなのだということを意識してデザインをしようと、いつも自分に言い聞かせています」と語っていましたが、ほんとに本って立体物なんだなぁと感じます。

 

上製本だと「背」ひとつみても、丸背や角背があり、開きの構造もホローバック、フレキシブルバック、タイトバックなどがありますよね。「本」という建物のビルディングブロックを意識しないといけない。本屋さんで、実際に本を手に取って見ている人たちをイメージすることも重要です。

== そう考えると「中身」だけが売られている電子書籍と単純に比較できませんね。

どちらも、「本」ってことで良いのだと思います。

「側」がない電子書籍は、モノではなく情報。だからこそ、いつでも、どこにいても、欲しいものを必要なだけ買えるジャストインタイムを実現しています。読者にとっては、選択肢が増えたわけですから、電子書籍は概ね歓迎されているはずです。

 

電子書籍は、たしかに「中身」だけかもしれませんが、本棚メタファーを採用した管理画面に、表紙のサムネイルが並ぶだけで、なんとなく所有している感覚を得られますから、ウェブ上のテキストコンテンツとは差別化できていると思います。

ウェブブラウザーで読むストリーミングスタイルが

主流になっていく可能性

== 紙の書籍と電子書籍を対立構造でみるのはあまり意味がないわけですね。

各々の長所短所を知っておくことは重要だと思いますが、「電子が紙を駆逐する」といった議論はちょっと大袈裟な感じがします。話題としては刺激的で面白いので、書籍や雑誌記事などのコンテンツとして出てくるのはよいと思いますが。

 

電子書籍は、テクノロジーに依存していますので、ウェブの技術やハードウェアの進化などで、現在できないことも、ある日突然可能になってしまう。読書システムも日々改善されていますし、デバイスの高性能化もすごいスピードで進んでいます。

 

もしかしたら、ダウンロードして読むより、ウェブブラウザーで読むストリーミングスタイルが主流になっていく可能性もあります。人は楽な方に流れていきますから、技術進化で一変します。ウェブの歴史をみれば、わかりますよね。

社会学者の稲葉振一郎さんが書かれた「オタクの遺伝子」という本があるのですが、このページデザインがすごいんです。見開きの中央にメインのテキストがあって、その周辺がすべて脚注で埋め尽くされている。膨大な脚注の中に本編が置かれている感じ。

オタクの遺伝子

著者:稲葉振一郎/発行:太田出版/発売日:2005年2月

http://www.ohtabooks.com/publish/2005/02/05202632.html

こんな凝ったページは、今の電子書籍では表現できません。技術的には作成できても、表示できる読書システムがない。やるとしたら、ページを画像にするか、PDFです。

ただ、ウェブブラウザー上では可能なので、電子書籍の中に2種類のデータを入れておいて、ストリーミングを選択したときに、高度なリフローのページを展開してやれば、表現できます。読書システムに表示されるページとデザインが変わるという問題はありますが。

 

電子書籍はウェブの技術で成り立っています。方針をちょっと変えるだけで、いろいろできますよね。

2010年頃は、「ウェブブラウザーで電子書籍? できるわけないじゃない、コピーされたらどうするの」などと言われていたのですから。

この文字の読みにくさがゾクゾクくる

== なるほど、電子書籍はまだ発展途上という見方もできますね。本好きの人たちは、わりと早い段階から電子書籍を受け入れて、積極的に購読されているようですが。

そうですね、特に本の置き場所に困っている方々にとっては、魅力的な仕組みになっていると思います。

 

ただ、本好きにはいくつかの層があって、例えば、きれいとか、かわいい、かっこいい、といった情動で本や雑誌を買っている人たちもかなりいます。STUDIO VOICEやWIREDなどの、「この文字の読みにくさがゾクゾクくる」っていう。

== わかります(笑)。私もSTUDIO VOICEは、捨てられず、本棚の奥にずっと保管してますので。

レコードなどもそうですね、ジャケ買いしたものだけ残して、あとは中古ショップに売ってしまう。ハンズに行くと、「これ、いい!欲しい。買おうかな」、「ところで、何に使うのだろう」なんて声が聞こえてくる。これも同じ。

人間の本能レベルから直接降りてきます。

この領域は、ドナルド・A・ノーマンの著書「エモーショナル・デザイン」が参考になります。ノーマンといえば、「誰のためのデザイン?」が有名ですが、エモーショナル・デザインでは、人間の認知や情動がデザインにどんな影響を与えるのか深堀していて、認知的要素と感情的要素どちらも密接だということがわかります。

エモーショナル・デザイン――微笑を誘うモノたちのために

著者:D.A.ノーマン/翻訳:岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、上野晶子

発行:新曜社/発売日:2004年10月

http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/4-7885-0921-0.htm

== 「側」のない電子書籍でも関係しますか?

手軽に得られることが売りになっていますので、芸術性の対象にはなりにくいと思いますが、少なくとも「表紙」は軽視できないということは、わかるはず。

やはり、魅力的な表紙だと目に飛び込んできますから。気づいてもらうきっかけにもなります。

 

ウェブだって、クールなウェブデザイン50選みたいな記事がたくさんブックマークされている。

もちろん、印刷物とウェブは特性が異なりますから、あらゆる人が対象となる自治体のウェブサイトなどが、視覚表現に寄り過ぎて、使いづらいと感じる人が出てきたら問題です。機能不備ということになります。

 

ただ、きちんと設計されていて、アクセシブルなサイトが、魅力的な外観も備えていれば、どう考えてもプラスに働くわけですから、情動に訴えることも重要なんだと思います。

希少性で経済的な価値に変換する仕組みの難しさ

== ソーシャルメディアと電子書籍についてもお聞きしていきたいと思いますが、何か感じていることはありますか?

FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが普及して、すでに生活の一部になっている人が多いと思いますが、今は消費される情報量が凄まじいですね。丹念に読める情報は限られていますので、多くは数秒で読み取り、反射的にいいね!やリツイートしていくのでしょうか。情報を「さばく」という感じで。

== 書籍が静的な情報だとすれば、ソーシャルメディアで飛び交うニュースや記事は、動的情報といってよいかもしれませんね。

ネットがなかった時代は、現実世界の自分と(一人でいるときの)内面の自分しかなかったわけですが、今はネットの中の自分もいる。匿名、実名問わず、それなりのセルフブランディングが成されているので、個性があります。だから、情報のさばき方もそれぞれ違っていて面白いです。

いいね!やリツイートだけ見ても、その人物像を形づくる重要な要素になっていますので。

 

でも、多くの情報がコミュニケーションソースとして扱われ、一瞬で消費されていくと、希少性で経済的な価値に変換する仕組みって厳しいですね。

 

例えば、電子書籍で希少性や所有権を発生させようとしたら、DVDのような物理的な媒体に記録するとか、特定の環境でしか読めないデータにするしかない。

でも、よほどのプレミアムな仕様じゃないと、日の目を見ないクローズドなコンテンツになって沈んでしまう可能性が高いと思います。

== 電子書籍で高級感って出せるのでしょうか?

先ほどの情動に訴えるデザインの話と関係していますが、書籍のように、紙質や装幀などで豪華さや上質感を出せませんから、見栄えでは難しいでしょうね。電子雑誌で、高級誌を凌ぐ上質感が出せないように、勝負所は手軽さに向かっています。手軽さでは電子の方が勝っている。

 

ただ、アプリケーションソフトにグレードがあるように、ライト版、スタンダード版、プレミアム版といった機能差で分けることは可能だと思います。

例えば、写真集なら、標準画質版600円、超高画質版1,000円のようにできます。熱狂的なファンが多い人気アイドルの写真集などは、有効な選択肢になるんじゃないですかね。

1986年

9月12日

一般社団法人 日本電子出版協会(JEPA)設立

1993年

11月1日

日本電気(NEC)から「デジタルブック」(29,800円)発売。フロッピーディスクドライブ(12,800円)で電子書籍を転送する

1995年

11月

株式会社パピレスがパソコン通信のサービス「電子書店パピレス」オープン

1996年

12月

「電子書店パピレス」がインターネット上でも出店開始

1998年

10月2日

国内の電子書籍市場の確立を目指す「電子書籍コンソーシアム」が発足

 

10月8日

MicrosoftとNuvoMedia、Softbook Pressが、「Open eBook」の仕様を作成。標準化団体「Open eBook Initiative」設立

1999年

7月15日

凸版印刷のデジタルコンテンツ配信サービス「Bitway(ビットウェイ)」オープン

 

9月21日

Open eBook Forum(オープン・イーブック・フォーラム)、EPUBの前身である「OEBPS(Open eBook Publication Structure)」を策定

 

11月1日

電子書籍コンソーシアムの「ブック・オンディマンド・システム総合実証実験」がスタート(2000年3月30日まで)

2000年

7月1日

ボイジャーが電子書籍フォーマット「.book(ドットブック)」のライセンス開始

2001年

3月21日

大日本印刷の電子書籍ストア「ウェブの書斎」オープン

 

7月27日

シャープ、ザウルス文庫向けの新フォーマット「モバイル・ドキュメント・フォーマット(MDF)」を開発

 

8月1日

株式会社まぐまぐ、有料メールマガジン「まぐまぐプレミアム」をスタート

 

11月1日

Amazonが国内で「Amazon.co.jp」のサービスをスタート

 

12月27日

イーブックイニシアティブジャパンの電子書籍ストア「10daysbook」オープン

2002年

10月1日

NTTドコモの電子書籍配信サービス「M-stage book」オープン。シャープの電子書籍フォーマットXMDFを採用

2004年

2月20日

松下電器産業、7.2インチの液晶を2枚使った見開きの読書専用端末「Σ(シグマ)ブック」を販売

 

4月24日

ソニーが読書専用端末「LIBRIe(リブリエ)」を販売

2007年

9月11日

IDPFが「EPUB 2.0」をリリース

 

Amazonが「Kindle(キンドル)」を販売。Kindle Storeをオープン

2008年

7月10日

AppleがiTunes 7.7のアップデータを公開し「App Store」が利用可能になる

2010年

4月3日

Appleがスレートデバイス(タブレット)「iPad」を米国で発売、電子書籍ストア「iBookstore」もオープン

 

5月28日

国内でも「iPad」が発売される

 

9月5日

IDPFが「EPUB 2.0.1」(EPUB 2.0のメンテナンスリリース)を承認

 

11月25日

大日本印刷「honto(ホント)」オープン(2001年開始の「ウェブの書斎」をリニューアル)

 

12月10日

シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブの電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS(ツタヤ ガラパゴス)」オープン

 

ソニーの電子書籍ストア「Reader Store(リーダーストア)」オープン

 

紀伊國屋書店の「紀伊國屋書店BookWebPlus」オープン。パソコン向けの配信からスタート

 

12月21日

大日本印刷とNTTドコモ、CHIグループ、株式会社トゥ・デファクトを設立

2011年

1月12日

大日本印刷とNTTドコモの合弁会社であるトゥ・デファクトがスマートフォン向けの電子書籍ストア「2Dfacto」オープン

大日本印刷の「honto」運営はトゥ・デファクトに移管される

 

1月28日

凸版印刷、株式会社BookLiveを設立

 

2月17日

電子書籍ストア「BookLive!」オープン

 

4月20日

東芝の電子書籍ストア「Book Place(ブックプレイス)」オープン

 

5月20日

紀伊國屋書店、「紀伊國屋書店BookWebPlus」サービスの第二弾として、Androidスマートデバイス向けにストア&ビューワーアプリ「Kinoppy(キノッピー)」を提供開始

 

6月1日

紀伊國屋書店、iPhone・iPad向けの「Kinoppy for iOS」を提供開始

 

9月30日

シャープはカルチュア・コンビニエンス・クラブとの業務提携を解消

「TSUTAYA GALAPAGOS」の名称を「GALAPAGOS STORE(ガラパゴス ストア)」に変更

 

10月11日

IDPFがフランクフルトのブックフェアで「EPUB 3.0」の仕様確定を発表

 

10月20日

Amazonが、Kindleの新フォーマット「Kindle Format 8(KF8)」を発表

2012年

1月11日

楽天がカナダの「Kobo(コボ)」を買収

 

4月2日

株式会社出版デジタル機構が設立。サービスの名称は「pubridge(パブリッジ)」

事業総額が約20億円の経済産業省の補助事業「コンテンツ緊急電子化事業」における代理出版を請け負う

 

5月17日

「honto」がハイブリッド型総合書店サービスとしてリニューアル

「2Dfacto」の名称を「honto」に変更、DNPグループのオンライン書店「ビーケーワン(bk1)」を統合

 

7月19日

楽天が「楽天kobo イーブックストア」をオープン

 

9月25日

Googleが「Google Play ブックス」を国内でオープン

 

10月25日

Amazonが「Kindleストア」を国内でオープン

2013年

3月6日

Appleの電子書籍ストア「iBookstore」が国内でオープン

 

4月19日

出版デジタル機構、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」において電子化された書籍の配信を開始

脚注:

映像コンテンツでは、コンプリートBOXなどの特典付きセット販売で、ファンのニーズをつかんでいる。音楽はコンピレーション、小説や漫画などは、アンソロジーとして提供できる。

参考:CSI:科学捜査班 シーズン12 コンプリートDVD-BOX 2

販売元:株式会社KADOKAWA 角川書店

販売力がないと、そもそも情報が届かない

== 今はどちらかといえば、気軽に買えるように、低価格で販売している人が多いので、収入的には厳しいと思うのですが。

まずは、本を読んでもらうことが重要ですから、手に入りやすい商品にしておかないと。ただ、どんなに価格を下げても、無料にしても、なかなか届かないものです。

 

今年は、自ら商品をつくって売っているので、ほんとに痛感しています。いくら商品力が高くても、販売力がないと、そもそも情報が届かないんです。書店に並ぶ紙の本ではありませんので、情報が届かないと、ほぼ存在しないのと同じ。友人、知人、ソーシャルメディアでつながりのある人たち程度で止まります。

== 有名な人とか、メジャーな媒体で取り上げられて、火がつく場合もありますが、そうあることではないですね。

ほとんどないと思います。ただ、継続的にブログなどで情報発信していて、そこそこ媒体力を持っていれば、すでに読者がいるわけですから、電子書籍を出すときには応援してくれると思います。自発的に宣伝もしてくれる。

だから、可能な限り執筆段階から情報発信していくべきだと思っています。創作に集中できなくなってしまう方もいるかもしれませんが。

コンテンツとUIがきれいに分離している電子書籍

== 電子書籍のユーザビリティについてはいかがでしょう?

電子書籍と言っても、Kindleストアで販売されているものと、App Storeで販売されているアプリの電子書籍とは、比較することができません。Kindleにしても、専用端末と無償提供されているアプリケーションがありますので、一括りにして話すのは難しい。

 

iPadが登場した2010年は、アプリで作られる電子書籍が多くて、90年代のマルチメディアブームの頃を思い出しましたね。どれも独自のUI(ユーザーインターフェイス)になっているので、中にはマニュアルがないと操作できなかったり、明らかにインターフェイスデザインで失敗している作品がありました。

 

現在の電子書籍ストアで販売されている作品は、コンテンツと読書システムがきれいに分離していますので、同じストアの電子書籍であれば、共通のUIで使えます。ストアごとに提供されている読書システムは、それぞれ独自に開発されていますから、UIも異なるわけですが、それほど大きな差異はないと思います。

 

アプリの電子書籍は、作品ごとの評価になりますが、Kindleなどのストアで流通している電子書籍は、どこも最低限のユーザビリティを確保していると考えています。

== 本を模倣したデザインは、電子書籍でも必要なのでしょうか?

ページめくりとか、あの木目調の本棚メタファーのことですね。

初期のiBooksは、見た目も「本」そのものでしたが、現在は無駄な装飾は省かれ、スクリーンの表示領域を有効活用できるようになっています。ページめくりもスクロールに切り替えられます。

どの読書システムも、アップデートを繰り返し、かなり洗練されてきたと思います。

 

ページめくりのアニメーションは、子ども向け絵本のギミックとして機能していますので、オプションとしてあってよいと思っています。

 

まぁ、フォーマットが「本」ですからね。表紙や目次があって、ページ単位で構成されているわけですから、ブックメタファーを採用するのは自然なこと。概念モデルはちゃんとあって、そのままだと複雑な仕組みも、簡素化できていると思います。

ユーザビリティを低下させていないのであれば、読者にとっても、見たこともない斬新なデザインより安心感を得られるのではないでしょうか。

Amnesty Interactive: a History and Atlas of Human Rights

1994年に発売されたAmnesty Internationalの電子ブック(CD-ROM)。しっかりとした構造設計で、視覚表現もバランスよくまとまっている。

漸進的、本の解体

== 最後に、電子書籍の未来についてお聞きしたいと思います。

電子書籍の未来ですか、難しい問いですね。

東京大学の坂村健さんが、1985年に出された「電脳都市 SFと未来コンピュータ」という本があります。コンピュータが登場するSF小説や映画を取り上げ、技術について解説するといった構成で、SFの資料としても価値がある本です。

電脳都市―SFと未来コンピュータ

著者:稲葉振一郎/発行:冬樹社/発売日:1985年5月

まえがきに「良く出来たSFは、技術的に完成されたコンピュートピアの世界を垣間見せる」と書かれているとおり、SFには未来をイメージするときのヒントが散りばめられてますよね。

 

マイクロカメラやディスプレイはメガネ、テレビ電話は腕時計など、30年、40年経っても変わらないアイテムも多いのですが、iPadのようなタブレットも、46年前の「2001年宇宙の旅」に出てきます。YouTubeには、食事しながらタブレットを使うシーンがアップされていて、ちょうどiPadが発売されたとき、この動画が「40年前のiPadだ」と話題になっていました。

 

SFで描かれる、電子書籍、電子新聞、電子雑誌の未来は、ほぼ「電子ペーパー」です。

今の読書端末などは、どちらかといえば、旧式のタイプで、映画や小説の中の最先端は、折れ曲がるタイプ。

 

ただ、実世界では、電話からスマートフォン、コンピューターからタブレットと進化してきて、音楽や映像、そして書籍もこれらのデバイスで楽しめるようになってきました。

eインクの読書専用端末も使われてますが、圧倒的にスマートデバイスです。

 

特にスマートフォンは、高精細化、ディスプレイの大型化によって、漫画などもそこそこ読めるようになってきましたので、若い人を中心に読書デバイスとしても定着していくのではないでしょうか。

== 電子書籍が普及しても、読書のスタイルが劇的に変わる感じではなさそうですね。

ソーシャルリーディングのようなムーブメントの可能性はありますが、人が集まるような娯楽にはなりにくい感じがしますので、個人的には、他のメディアやイベントとの連携で新たな世界観をつくっていくような、コンテンツ寄りの新しい試みに興味があります。

 

一言でいうなら「漸進的、本の解体」。

本のパッケージとしての利点を活かしつつ、解体、再構築も進めて、新しい価値を生み出せるような仕組みをつくりたいですね。

Amazonが提供している「Whispersync For Voice」というサービスが近いかもしれません。電子書籍とオーディオブックを購入すると、ページと音声が同期するという技術。

電子書籍とオーディオブックを融合させるのではなく、それぞれ単体の商品を同期技術で連携させ、新たな価値を提供しているのが特徴です。

1つのコンテンツの機能を拡張するのではなく、他のコンテンツと連携させて、今までにない価値を生み出すところに新規性があると思っています。

脚注:

clip1: Apple iPad in the 1969 classic: 2001 A SPACE ODYSSEY

話題になった「2001年宇宙の旅」の1シーン

脚注:

MITメディアラボ所長だったニコラス・ネグロポンテ氏(現在は上級所長)の著書。イントロダクションの「書物という形式のパラドックス」は必読。

参考:「ビーイング・デジタル―ビットの時代」

著者:ニコラス・ネグロポンテ/監訳:西和彦/翻訳:福岡洋一/発行:アスキー

新装版の書籍ページリンク

電子書籍の未来は、ウェブの未来でもある

== 興味深いサービスですね。連携の発想というのは難易度が高そうですが。

「新しい発想」なんて、言うは易く行うは難し、一朝一夕にはいかないことですが、行き着く先はやはり教育でしょうか。

今年は、小学生、中学生向けのプログラミング関連のイベントがとても多いんです。大半は、MITラボが開発したScratch(スクラッチ)という言語を使っていますが、スクリーン上の操作だけではなく、レゴブロックのロボットに命令を送って動かしたり、ハードウェアとの連携もあって、自由な発想をさせる環境として大変優れています。

Scratch - Imagine, Program, Share

http://scratch.mit.edu/

こういったソフトウェア、ハードウェアの垣根のない自由度の高い学習が、さまざまなモノを結びつける新しい価値を生み出す源泉になっていくと思っていますので、もっと学べる機会を増やしてほしい。

 

以前、教室を見学したとき、海中船に搭載されている水中カメラのリアルタイム映像を、自分でつくった図鑑の中に写し出したい、と質問していた子どもがいて、「これだ!」と思ったんです。

PCのWebカメラの映像をコンテンツの中に表示できることを学んでいたので、自然と湧き出てきた発想だと思いますが、とてもユニークじゃないですか。

== まさにソフトウェア、ハードウェアの垣根のないアイデアですね。

SF世界の電子書籍の未来は、紙に近づき、紙を超えるテクノロジーでしたが、これからは、モノやコトと結びつく、今まで見たこともない電子書籍の未来が描かれるかもしれません。

荒唐無稽でいいと思います。

 

私たちは、そこまで飛べるかどうかわかりませんが、「電子書籍の未来を語る」みたいなイベントなどを開催して、たまには頭の中をシャッフルしたいと思います。

 

10年後の電子書籍を考えることは、同時にウェブの10年後、スマートデバイスの10年後もイメージすることになります。ウェブの視覚表現技術が進化して、印刷に適用される可能性もありそうですね。

テクノロジーに依存する電子書籍の未来は、ウェブの未来でもある。

 

今、若い起業家が次々と新しいウェブサービスを立ち上げています。未来を待つのではなく、自分でつくっていけるのもウェブの魅力です。

 

今後ますます、職能横断的な活動が重要になってくるのではないかと思います。

YOUJI SAKAI

INTERVIEW BY THE FUTURE OF DESIGN DIGITAL PUBLISHING TEAM

脚注:

Welcome to Scratch Day 2013 with Japanese sub

40ヵ国で100以上のScratch Dayイベントが開催されている。スクラッチ開発者のレズニック教授からメッセージ(日本語字幕)。

http://youtu.be/DFgyY50R0iA

脚注:

すでに、ネットとソフトウェア、ハードウェアが融合し始めている。新しいデザイナー、エンジニアも登場し、今までとは異なる先進的なものづくりに注目が集まっている。この潮流は日本でも、子ども向けのプログラミング体験イベントの増加などに表れている。

参考:Solid 2014 - O'Reilly Conferences

http://solidcon.com/solid2014

シングルページマガジン
Adobe Muse CC 2014

POWERED BY

参考リンク:シングルページのギャラリーサイト

Single Page Gallery

クリエイティブエッジマガジンの期間限定サービス

シングルページクリエイション

図版:Adobe Museの編集画面

Adobe Muse のライブラリ(HTMLモジュール)ウィジェット、アセットマネジメントを強化したワークフローを導入し、効率化を実現

図版:スマートフォンで使いやすいページ設計を示した画面

スマートフォンなどの小さな画面(ポートレイトモード)で見やすいデザインを重視し、構成要素ごとにプランニングを実行しています。

素材を受け取り、シングルページに仕上げる期間限定サービス(7-8月)を受付中です。

 

このトライアルは、電子書籍のプロモーションページ/ランディングページを対象に開始しましたが、(プロダクションワークのノウハウ蓄積を目的として)価格を2万円に設定したこともあり、現在、イベントやアート作品、店舗の紹介など、さまざまな分野の作業が進んでいます。

 

ウェブサイトはレスポンシブデザインで設計していますが、今回のプロモーション用のシングルページ作成では、Adobe Muse を核にした新しいワークフローを導入、クオリティを落とすことなく、効率化を可能にしました。

 

作品、商品、イベントなど、プロモーション用のシングルページ作成をご希望の方は、是非ご利用ください。

 

詳細ページへ

 

また,「Adobe Muse CC 2014 によるランディングページのプランニング/効率的な作業方法の習得」訪問ワークショップも引き続き、受付中。Adobe Museでランディングページの設計・作成を習得したい方は、[ebookcast@gmail.com]までご連絡ください。

期間限定、受付中
このエントリーをはてなブックマークに追加

クリエイティブエッジ・ストアでは、プロモーションページ作成以外にも、一緒に作品をプランニングしていくコラボレーション&サポートも実施しています。

また、電子絵本(HTML5)のオーサリングも特別価格で開始する予定です。いずれも、トライアル期間限定のサービスです。正式開始後は、受注制作をおこないませんので、トライアル期間だけの試みになります。

クリエイティブエッジ・ストア 隙間時間を活用して最先端を学ぼう 電子本のつくりかた 電子出版の学校

ebookcast@gmail.com

The Future of Design Digital Publishing Team

デザインの未来 デジタルパブリッシングチーム

 ズオンコーポレーション 東京都中野区2-30-9 ツバセス中野坂上 333

© 2014 The Future of Design Digital Publishing Team