電子書籍メディア論「HTML5と電子出版」/第4話 HTML5マガジンでは3種類のマネタイズを組み合わせる

第4話 HTML5マガジンでは3種類のマネタイズを組み合わせる

HTML5 Book Story Episode 4 :
現在の電子出版ビジネスは、既刊本を電子書籍フォーマットでデジタル化し、企業が提供している電子出版プラットフォームで販売する方法が主流になっています。電子書籍フォーマットは、IDPF(International Digital Publishing Forum)が策定している「EPUB 3(イーパブ)」が事実上の標準として業界に受け入れられており、国内でも昨年からEPUBでつくられた電子書籍が増えています。

 

AmazonのKindleストアは、2005年に買収したフランスのMobipocket(モビポケット)の技術をベースにした独自フォーマットを採用していますが(参照:Mobipocketの仕組み)、EPUBからの変換を可能にしていますので、まったく異なる2つのフォーマットがしのぎを削っているという状況ではありません。
2011年10月10日、EPUB 3.0が告示されますが、10日後の10月20日には、AmazonがEPUB 3.0と同様にHTML5を採用したKindle Format 8(KF8)を発表するなど、どちらかといえば、EPUBと足並みを揃えることで、自社の電子書籍化の敷居を下げようとしているように思えます。標準規格として普及しているEPUBは制作ツールも充実しているため、EPUBを入稿フォーマットとして推奨したほうが、結果的に電子書籍化の作業を効率化できるからです。

 

今回のHTML5プロジェクトは、ブラウザーで利用するウェブアプリもしくは、ハイブリッドアプリで展開していきますが、前述したEPUBやKindleフォーマットなどの電子書籍フォーマットも活用していきます。これは「第2話 電子書籍フォーマットを採用する理由」で紹介したマイクロコンテンツ・マネタイズによって、記事単位の収益化を図るのが目的で、ビジネス継続性を確保するための重要な柱になっています。

以下の3種類のマネタイズを組み合わせています。
すべてウェブ標準の技術(HTML)でつくられたコンテンツです。ウェブ標準を採用しなければ、3つモデルを同時に進めることは不可能でした。

  • ウェブアプリ
    (フリーミアム/サブスクリプション)
  • ハイブリッドアプリ
    (アドバンスドコンテンツをApp Storeなどのアプリストアで販売)
  • 電子書籍フォーマット
    (記事ごとのパッケージをKindleなどの電子書籍ストアで販売)

 

雑誌の主体は、ブラウザーで読むウェブマガジンですが、いきなりガチガチのサブスクリプションではスタートできないため、記事を電子書籍ストアやアプリストアで販売することになります。電子書籍ストアは、Kindleストア、iBookstoreなど、アプリストアは、App Store、Google Play、Amazon Androidアプリストアなどが対象となります。

電子書籍ストアでは「記事のテキストと図版のみで構成されるミニマムなコンテンツ」、アプリストアではウェブマガジンで公開される「動的な表現を含む記事をハイブリッドアプリ化」して販売します。なお、ウェブアプリで可能なものをそのままビルドしただけのコンテンツは、App Storeで受け付けてもらえない可能性がありますので、ユーティリティ機能を付加することを検討しています。

 

ユーティリティ機能については、O’Reilly Mediaのイーブック・オペレーションズマネージャー、ネリー・マッケソン氏とGoogleのクリス・ウィルソン氏によるプレゼンテーション「Show, Don’t Tell」が参考になります。ネリー・マッケソン氏は、A Book Apart(ウェブデザイン関連書籍で評価の高い出版社)の電子書籍化で、EPUBのマークアップエディターもやっており、電子書籍制作のプロフェッショナルです。

プレゼンテーションビデオのスクリーンショット

HTML+CSS+Package=ebook

HTML+CSS=book

Fluent 2013: Nellie McKesson and Chris Wilson, “Show, Don’t Tell

ビデオを視聴できない方(通勤中にこの連載を読まれている方など)は、テキスト化されたページをご覧ください。
後述するO’Reilly Atlasでプレゼンテーションのアウトラインが公開されています。スクリーンショットも掲載されていますので、内容を把握できます。

 

 

今回のHTML5プロジェクトに近いモデルは、O’Reilly Media(オライリーメディア)が推進中の「O’Reilly Atlas(オライリーアトラス)」ですが、ワークフローはまったく異なります。O’Reillyは、XMLによるソース管理によってワンソースマルチフォーマットを実現しており、2009年には(PDFやEPUB、Mobiなど複数の形式をセットにした)「ebook bundle:イーブックバンドル」を開始しています。

O'Reilly Atlasのスクリーンショット

 

私たちが進めているHTML5プロジェクトのワークフローはどちらかといえば「手作り」です。独創的なフリーレイアウトを実践するため、テンプレートによる自動化が困難なためです。「第3話 エディトリアルデザイナーがウェブアプリ制作を担当」で書いたとおり、静的なページデザインからコーディング作業までの過程で、制作時間がかかりすぎるため、(ウェブデザイナーがコーディングするのではなく)エディトリアルデザイナーがノンコーディングツールで、ウェブアプリを作成することになりました。

O’Reillyとは真逆のやり方ですが、イーブックバンドル前提のアウトプットは同じです。

 

過去のエピソード:

 

投稿日:2014年1月18日


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