電子書籍メディア論「HTML5と電子出版」/第5話 電子出版界のペヨトル工房を目指せ!

第5話 電子出版界のペヨトル工房を目指せ!

HTML5 Book Story Episode 5 :
HTML5プロジェクトでつくる雑誌は、「Simplify(とにかくシンプルに)」「Distillation(要点を抽出してわかりやすく)」「Social discovery(偶発的な発見を生み出す)」の3つのコンセプトで編集指針を決めています。
タグラインは「小さなハピネスつくりかたマガジン」です。なんだか、フワフワした表現ですが、どんな思いでもかまわないので、一瞬で消費されるものではなく、クリップ(コレクション)したくなるような記事にするため、時間をかけてプランニングしています。

手間はかかりますが、「第4話 HTML5マガジンでは3種類のマネタイズを組み合わせる」で書いたとおり、記事単位の収益化(記事を電子書籍として販売)を重視していますので、オリジナルコンテンツには力を入れなければいけません。

広告モデルで運用されるウェブマガジンの場合は、最新の情報が得られて、勢いで拡散しやすい記事の方が適していますが、今回のプロジェクトでは掲載記事の単体売りに挑戦しているため、速報性は求めず、あえて手間のかかるコンテンツを選びました。

HTML5マガジンの編集指針を決める3つのコンセプト:

  • Simplify(シンプリファイ)
  • Distillation(ディスティレーション)
  • Social discovery(ソーシャルディスカバリー)

 

ディスティレーションについては、ソーシャルメディア・マーケティング界隈で知られているロヒット・バルガヴァ(Rohit Bhargava)氏が、2011年3月31日のブログエントリーで、コンテンツクリエイターの5つの手法について定義しており、2つ目にDistillationと題して「情報を単純化してキュレーションする行為」と記しています。Distillationとは「蒸留」という意味ですから、ネット上に散在する情報を収集、取捨選択した上で、シンプルにまとめて表現するこということです。

参考:

 

ソーシャルディスカバリーは、SNSの友人・知人を通じて、偶発的な「発見」を生み、共有されることです。たんに、同じ趣味の人や注目しているキーパーソンから得た情報で「知る・出会う」ということではなく、その外側にいる人たちを介して予期せぬ、偶発的発見の機会を生み出すことが大きな特徴だといえるでしょう。

※参考:位置情報のデータを利用した「ソーシャルディスカバリー・アプリ」は、SNSライフを実生活と結びつけようとしており、より直接的で、出会い系サービスに近い特性を持っています。万人に受け入れられるアプリケーションではなさそうです。

 

Simplify(とにかくシンプルに)、Distillation(要点を抽出してわかりやすく)、Social discovery(偶発的な発見を生み出す)の3つのコンセプトを具現化するために、参考にした番組、メディア、出版社があります。NHKで放映されていた「週刊こどもニュース」、広告モデルに依存していないウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」、そして多くのファンに支えられていた出版社「ペヨトル工房」です。

 

シンプリファイ

週刊こどもニュースは、1994年から2010年までNHKで放映されていた子ども向けのニュース番組。池上彰さん(当時44歳)が初代「お父さん」として11年間担当していました。DVDで発売されていますが、NHKアーカイブスでは95年放送の一部を視聴することができます。

小学生に、総会屋とか、カラ出張、テロリストなど、理解しにいくいことを図解や模型を使いながら教えるという内容で、大人でも勉強になる番組でした。実際のところ、視聴者の多くは50歳以上だったようで、後継番組は視聴層を広げた「週刊 ニュース深読み」(2011年開始)になりました。

子どもニュースのスクリーンショット

参考:

 

たとえばJALの経営破たんの話をしたときですが、人件費や不採算路線を、物理的な重荷として模型の飛行機の翼の上にどんどん載せたんです。すると「重くて飛べないよね」っていうのが、感覚的にわかります。「でも、この重荷を下ろせば飛べるでしょ」って。そういうわかりやすいメッセージに落とし込むための模型です。

 

週刊こどもニュースから得たヒントは、第一のコンセプト「シンプリファイ」です。情報を削って単純化するのではなく、「置き換え」や「比喩」を駆使して、子どもでもわかるように伝えることを意味します。

 

ディスティレーション

ほぼ日刊イトイ新聞は、コピーライターの糸井重里さんが主幹するウェブメディアです。1998年から15年続いている人気サイトですが、広告モデルに頼らず、オリジナル企画を中心に物販やイベントを展開しているのが大きな特徴。
90年代半ば、一緒に仕事をしていた方が会社を退職後、東京糸井重里事務所に入り、ほぼ日の運営に携わっていましたので(その方が進めていた)Tシャツのプロジェクトなど、興味深い話を聞いていました。その頃から、物販とそのプロセスから生み出されるコンテンツ(サイトの記事)には、ずっと注目していたわけです。

今回のHTML5プロジェクトでは、物販はやりませんが、オリジナルコンテンツづくりの参考にしました。たとえば、糸井重里さんが他の媒体で対談をした場合でも、なぜか「ほぼ日」テイストになります(以下、ケイクスの記事を参照)。ウェブメディアのブランディング作業には、文字起こしの校正も含まれます。漢字を減らすとか、話し言葉の語尾の修正とかいろいろあるはずです。コンテンツの面白さとは別に、そのメディアの「個性」を確立していくことの重要性を感じます。

参考:

 

参考:

ほぼ日ストアのスクリーンショット

 

 

ソーシャルディスカバリー

最後のペヨトル工房は、1978年に設立された出版社で、先鋭かつ独特のテーマを扱った「濃い」出版物が多く、異彩を放つパブリッシャーとして知られていました。1998年に出版活動を停止(2000年に解散)していますが、ペヨトル工房のファンが立ち上げたサイト(参考:PeyotlFan)は、まだ閲覧可能になっています。

私が、ペヨトル工房から受けた影響は「ファン同士のつながり」です。今なら、Facebookには活発なコミュニティがたくさん生まれていたでしょう。また、クラウドファンディングで「ペヨトル工房を救おう」という活動も起こっていたはずです。そのくらい、多くの「濃い」ファンに支持されていた出版社だったということです。

参考:

 

雑誌「夜想」「WAVE」「銀星倶楽部」「ur」などを中心に80~90年代の文学・アートシーンをトップスピードで駈けぬけた伝説のインディペンデント出版社、ペヨトル工房。ペヨトル工房はなぜ「解散」しなければならなかったのか?
主宰・今野裕一と元スタッフたちが創業から解散にいたる20年をふりかえる。また、解散後の動きもリアルタイムで収録。ペヨトル・ファンのみならず、出版の未来を考える人にも必携の書。

 

ストアページのスクリーンショット

ペヨトル工房が発行した雑誌を扱っている「nostos books(古書ノストス)

 

 

過去のエピソード:

 

 

投稿日:2014年1月20日

 

 

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