2014年7月7日:ユニバーサルな電子書籍を目指して、9月から電子出版も始動
HTML5 Publishing Magazine Development Diary 24 :
7月7日になりました。予定ではサイトとストアの公式オープンでしたが、2週間ほど遅れてしまいそうです(疲)。外観の変化はないので、見た目はプレオープンと変わりませんが、稼働しているシステムを調整する必要がありました。私の進め方に重大なミスがあり、先週からその対処に追われていた、という状況。
9月本格始動の予定は変えていませんので、どこかで挽回しなければいけません。ほんとに「言うは易く行うは難し」です、大変良い勉強にはなっていますが…
現在の活動を進めるにあたって、最も上位に置いている理念は、教育のオープン化で、OER(オープン教育リソース:Open Educational Resources)の目的に近いものです。
参考:
米国のSPARC(Scholarly Publishing & Academic Resources Coalition)のサイトに、OERのプロジェクトとポリシーに関する情報のリストが掲載されています。
List of OER Projects & Policies
SPARC Webcast: Libraries Leading the Way on Open Educational Resources
スタート時は、学校法人の一事業体の活動だったので(Twitterのアカウント名はその名残)、すべて無料で公開できたのですが(対談コンテンツなどを作成)、現在は単独で継続していますので、理想と実利の追求というのは簡単なことではありません。
要するに、利潤を得られないと、存続することができませんので、両立可能なエコシステムを考える必要がありました。
現在実行しているのは、すでにサイト等で記載しているとおり、オンライン学習のアーカイブをストアで販売し、販売期間(6ヵ月に設定)終了後に無料公開するというやり方。
販売終了が確定した後、ストアページの「利用規約」に終了日を追加し、終了後、公開の準備を1ヵ月ほどかけて進める流れになっています。
年内、無料公開されるコンテンツは以下のとおりです。
6時間で学ぶAdobe Muse CC 完全習得[基礎編]
- 商品登録日:2014年01月30日
- 販売終了:2014年07月30日
- 一般公開:〜9月上旬(予定)
4時間で学ぶAdobe Edge Animate CC 基礎編
- 商品登録日:2014年05月03日
- 販売終了:2014年11月03日
- 一般公開:12月下旬(予定)
3時間で学ぶAdobe Muse CC 実践編 ランディングページ制作
- 商品登録日:2014年05月27日
- 販売終了:2014年11月27日
- 一般公開:12月下旬(予定)
今の心境は「6ヵ月は意外とはやかった…」です。
すべてのコンテンツが均等に売れていくわけではありません。売れるコンテンツ、売れないコンテンツが混在しており、売れ続けている商品を「販売終了」するのは、やはり勇気がいります…
フリーコンテンツだと、学校の先生に「ここに動画がまとまっているので使ってください」と紹介できますので、体験授業などの相談を受けたときには、とてもスムーズに話しが進みます。
電子出版の学校には、3時間分のKindle本の作り方を公開していますが、とても役に立っています。こういう体系的に学べるコンテンツは、お金も時間もかかるので、商品として作るしかないのですが、フリーになったとき、初めて生きた教材になる感じがします(部分使用も再編集もできますので)。
9月からはいよいよ電子出版
現在は動画コンテンツしかありませんが、9月からは本格的に電子出版に取り組み、同じシステムで進めていく予定です(時間かかりましたが、マーケティング次第で十分売れると確信を得た結果です)。
ただし、完全オリジナルではない場合は、著者の意向に沿って検討します。6ヵ月でよいのか、1年か2年か、一般公開するか、しないか等、意見を出し合って決めることになると思います。
ペイドコンテンツの役割を終えた作品をネットに置き、誰でもアクセス可能にしておく。それらのフリーコンテンツが著者なり、出版社の資産として蓄積されていくことで、次の作品に興味を持っていただく「きっかけ」の一つになっていけば、たんに公開して終わり、とはならないと考えています。
「こんなややこしいパブリッシャーが1つくらいあっても、いいですよね」と、人と会うたびに聞いています。
ユニバーサルな電子書籍をめざして
2010年末に発行した「電子書籍の作り方」(技術評論社)の最終章で、「ユニバーサルな電子書籍をめざして」という文章を書きました。この頃の国内の電子書籍市場は、ケータイ向けが全体(650億円)の88%(572億円)を占めており、新市場(スマートデバイス、専用端末)については、まだ24億円しかなかったんですね。
※電子書籍フォーマットの方はXMDFと.bookが主流
いくらウェブの標準技術(HTML)を採用しても、権利処理のことを考えると、「書籍Aの10ページから、書籍Bの120ページを参照する」といったウェブの利点(ハイパーリンク)を活かすのは難しいだろうと思いつつ、もし可能だとすれば、どの分野かな、などと考えていました。
引用:
ユニバーサル・イーブックは、トランジショナル・イーブックとは異なり、近視眼的な行為をできるだけ避けて、将来の大きな利得を優先する電子書籍のことです。
「相互運用性」(Interoperability)や「発展性」(Evolvability)などが優先されます。
引用:
アプリケーションソフトのように、開発中止(サポート中止)で読めなくなる「情報消費される」電子書籍は、トランジショナル・イーブックとして読者に提供し、Webページのように(古い仕様が上書きされない)発展性のある電子書籍は、ユニバーサル・イーブックとして設計します。
この頃(2010年)、話題の電子書籍は、ほぼアプリとして作られていましたので、あえて、2つのタイプに分け、作り分けるという考え方で、まとめました。
もし、自分で電子出版するなら、「ユニバーサル・イーブックかなぁ」と漠然と思っていたわけですが、4年経って、実践することになるとは。ただし、販売中は「閉じた電子書籍のまま」、販売終了後、解放するという流れです。
アウトプットのスタイルは、O’Reilly Mediaが推進中の「O’Reilly Atlas」(ベータ版)で公開されている書籍が近いイメージです。
このブログのカテゴリーが「HTML5パブリッシングマガジン開発日誌」ですから、現在進めているHTML5版の電子書籍フレームワークを使います。
参考:
電子書籍をウェブ展開する一例:
O’Reilly Atlas
Interactive Data Visualization for the Web
以下は、Google検索で表示された書籍のページから、アンバンドル(この場合は「章」単位で購入可能)へ誘導する例です。
参考:
Inkling
Cooking for Geeks
電子書籍のアクセシビリティについての課題は、「特別な作業」になっていることですが、これは携わる人たちの意識や開発の敷居の高さなど、問題は複雑です。
電子書籍のアクセシビリティって何でしょう。ウェブの技術を採用しているのだから、もともとアクセシブルなデータのはず。でも、これは94年にインターネットが「商用化」されてから続いている課題の一つ。限られた人向けではビジネスが成り立たない、同時解決のアイデアが必要という議論です。
— 境祐司 (@commonstyle) 2014, 7月 5
参考:
アクセシブルな電子書籍に求められる機能
視覚障がい者とインターネット 3/4
松井 進さんによる電子書籍のアクセシビリティについての講演(2011年7月9日)
「アクセシブルな電子書籍に求められる機能」は、5分8秒あたりから。
フリー化した電子書籍を使い、本の特性(パッケージ)を保持しつつ、参照はどこからでも可能、ウェブアクセシビリティも確保できる柔軟なデータにできれば、と考えていますが、
直近の課題は、どうやって「理想と実利」を両立させるかということですね。
先月から同時に走らせているプロダクションワーク(制作業務)が、より重要になってきた感じです。
情報がまとまれば、明日、詳細を書きたいと思います。
ここからは、お知らせです。
先月、「個人・小規模な出版社向け直販ストアの作り方[実践編]」をリリースしましたが、このコンテンツは直販だったので、購入者の皆さんとコミュニケーションすることができました。
予定していなかったサポートなども臨機応変にさせていただくことで、コンテンツ自体を早々とフリーにしました。直販じゃないと、こんなことはできないのですが、この流れは電子出版につながっていきます。
「直販ストアの作り方」を電子書籍化しようという試みです。
コンテンツを再構築する必要があるのですが、その費用の捻出は困難なため、無料メールマガジンとして配信しながら、読者の皆さんの意見を参考に、本という情報のまとまりに収斂させていこうと考えています。
かなりの分量がありますが、1冊の本になれば、「動画は観るのが面倒」という方々にも興味を持っていただけるのではないかと期待しています。
尚、今回は電子書籍化を前提とした無料メールマガジンということで、現在配信中のニュースレターとは分けています。
※ニュースレターはシステム調整中です。調整でき次第、(隔週なので)第3号からの配信になります。
また、シリーズで書いていた、以下の「電子出版のマーケティング」に関する記事も、ブログではかなり浮いてるため(読者層がまったく異なることがわかってきました)、分離し、無料メールマガジンの方に反映させたいと思います。
電子書籍を確実に売るために、やるべきこと(1)/あなたの情報はどのくらいの人に届いているのか?
7月上旬から配信します(スライド資料や動画のリンクなどが含まれます)。現在はサンプル誌のみ公開されています。
以下のリンク先ページ、もしくは下のフォームで登録できます(まぐまぐを利用しています)。
仕事で使用していないメールアドレスがよいと思います。
無料メールマガジン:
クリエイティブエッジ・ビジネス
※スマートフォンの場合、上記のフォームですと、メールアドレスを入力しづらいと思いますので、メルマガのページで登録したほうがよいかもしれません。
HTML5パブリッシングマガジン開発日誌:
- 2014年7月7日「ボイジャーの「Romancer」で電子書籍を作成し、PCとスマートフォンのウェブブラウザで読む」
- 2014年7月2日「EPUB をコミュニケーションインフラに載せた初めての取り組み「Tw-ePub」」
- 2014年7月1日「E★エブリスタはファンコミュニティ、noteはフリマ的クリエイティブマーケット/電子書籍を確実に売るために、やるべきこと(3)」
- 2014年6月29日「そもそも情報が伝わっていないのに「電子書籍は売れない」はおかしい/電子書籍を確実に売るために、やるべきこと(2)」
- 2014年6月28日「電子書籍を確実に売るために、やるべきこと(1)/あなたの情報はどのくらいの人に届いているのか?」
- 2014年6月27日「半年かかりましたが「電子出版は儲からない」は「間違い」と思える段階まで、やっと到達。」
- 2014年5月14日「自分の書店を持ち、6つの電子書籍ストアで販売する[BCCKSの活用]」
- 2014年5月10日「本の予告動画「ブックトレイラー」を無料アプリ「Adobe Voice」でつくろう!」
- 2014年5月09日「Webデザイナーの情報収集力と仕事の速さを活かして電子出版」
- 2014年5月08日「ウェブキャスト「HTML5と電子出版/開発日誌 Vol.01(50分)」とスライド資料(PDF)の公開」
- 2014年5月02日「ウェブ表現の可能性を追求する「4時間で学ぶ Adobe Edge Animate CC 基礎編」をリリース」
- 2014年4月25日「昭和の物知りオジさん一考察」
- 2014年4月18日「電子書籍の作り方を学ぶサイト「電子出版の学校」を公開」
- 2014年4月03日「AndroidタブレットだけでEPUB 3 固定レイアウトの本を作成(Book Creator for Android)」
- 2014年3月28日「評価モニターを募集しています「Kindleストアで販売する電子書籍の作り方」」
- 2014年3月24日「やっとリリース、3時間で学ぶ「Kindleストアで販売する電子書籍の作り方」」
- 2014年3月19日「電子出版の未来を考え、創造していくために今からやること」
- 2014年3月18日「WordPressでHTML5アニメーションを毎日投稿することも可能です」
- 2014年3月17日「電子書籍を読者に「見つけてもらう」ために/コンテンツマーケティングの領域に踏み込み、2ヵ月間実践した結果を報告します」
- 2014年3月16日「電子書籍やランディングページでストックフォトを利用する方法を紹介します」
- 2014年3月15日「個人出版の敷居はまだ高いのか? 電子書籍(EPUB)作成のどこが難しいのか考えてみる」
- 2014年3月14日「ウェブと電子出版の今後について考えてみませんか?」
- 2014年3月13日「ウェブマガジンの開発日誌を始めました!」
只今「コラボレーション&サポート」進行中&募集中
イラストレーター、マキセ ヒロシさんの新作(電子書籍絵本)のプロモーション・プロジェクトがスタート
投稿日:2014年7月7日
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