電子書籍メディア論「HTML5と電子出版」/第6話 電子書籍の寿命を読者にわかりやすく伝えること!

第6話 電子書籍の寿命を読者にわかりやすく伝えること!

HTML5 Book Story Episode 6 :
O’Reilly Media(オライリーメディア)が、XMLシステムによって、技術書のワンソースマルチフォーマットを実現していることは本連載で何度も紹介してきました。2008年から開始された「ebook bundle:イーブックバンドル」は、PDF、EPUB、Mobiをセットにしていますが、一部の電子書籍には、DAISYやAPKも付いています。私が2011年に購入した「HTML5: Up and Running」は、前述した5つのデータがセットになっていました。
※過去の記事でebook bundleの開始を2009年と記していましたが、2008年です。

イーブックバンドルのスクリーンショット

 

O’Reillyは、2001年にPearson Education(ピアソン・エデュケーション)と共同で、技術書読み放題の「Safari Books Online」サブスクリプションサービスを開始しており、ワンソースマルチユースはどの出版社よりも急務でした。
※Pearson Educationは、PTG(Pearson Technology Group:ピアソン・テクノロジーグループ)、Pearson PLC(ピアソン PLC)の一部門でした。2011年に、Pearson Educationから、Pearsonにブランド名を変更しています。

当時すでに実現していたマルチユース:

  • プリント版のPDF出力
  • 電子版のPDF出力
  • Safari Books Onlineのウェブブラウザ閲覧用出力

 

Safari Books Onlineのスクリーンショット

参考:

 

利便性や価格ではAmazonのKindle Storeが優っていますが、技術書の読者にとっては、DRMフリーで、どのような閲覧環境でも対応できるebook bundleの方が魅力的です。仕事場では(プリント版と同じ紙面の)「PDF」版をデスクトップで、通勤中は(可読性の高い)「EPUB」版をスマートフォンで読む、といった使い分けが可能だからです。

 

アプリ版の電子書籍はいずれ読めなくなる

O’Reillyは、アプリ版の電子書籍も提供し始めますが独自開発ではなく、Lexcycle(レックスサイクル)社と提携し、コンテンツは「EPUB」、エンジンは「Stanza(スタンザ)」という構成でビルドされたアプリをApp Storeで販売していました。アプリ版電子書籍の永続性については、「もし、将来アプリが動作しなくなっても、中にあるEPUBファイルを取り出せばよい」と自社サイトのブログに掲載。購入者は、アプリの中から簡単にEPUBを取り出せるようになっていました。

オライリーのブログのスクリーンショット

参考:

 

2012年、恐れていたことが起こります。Lexcycleは2009年2月、Amazonに買収されましたが、Stanzaのアップデートは引き続き継続されていました。ところが、2010年6月頃から情報発信が途絶え、2012年にリリースされたiOS6では動かなくなり、ついに開発が停止、公式サイトも消失。
※FacebookではStanza救済のグループが立ち上がりました。

レックスサイクル社サイトのスクリーンショット

App Storeで買ったO’Reillyの電子書籍も読めなくなってしまいましたが、前述したとおり、中に入っているEPUBファイルを取り出せば、iBooksなどのビューアーで問題なく読むことができます。

ただ、私たちのように常にネットで情報収集している読者は対応できますが、その他の一般ユーザーは「OSをアップデートしたら、読めなくなった」としか理解できないと思います。

実は、Android向けのアプリ版電子書籍でも同様の方針を貫いています。Aldiko(アルディコ)と提携し、コンテンツは「EPUB」、エンジンは「Aldiko」という構成でビルドし、Androidマーケット(現Google Play)で販売していました。Androidの場合、中にあるEPUBファイルを抜き出すことが難しいため、電子書籍に「EPUBエクスポート」という機能を搭載。アプリ版電子書籍から、EPUBを書き出し、SDカードに保存できるようになっています。

アプリ版電子書籍のスクリーンショット

 

現在、O’Reillyはアプリ版の電子書籍を提供していませんが、過去に販売されたアプリは、中のEPUBファイルを取り出すことで、現在でも読むことが可能です。コンテンツ本体はHTMLですから、10年後、20年後も大丈夫でしょう。

 

ウェブコンテンツではなく「紙の本の電子版」として販売しているストアは、可能なかぎり「読めなくなること」を回避しなくてはいけませんが、サービスのアプローチによって性質が異なってきます。
O’Reillyの直販では電子書籍の永続性を重視していますが、Safari Books Onlineの方は、脱会すると「本を読む権利を失います」。ただし、サブスクリプションサービスで本が読めなくなっても、文句を言うユーザーはいないはずです。

重要なのは、何に対してお金を払っているのか、利用者にわかりやすく説明することです。
技術の問題でもなく、権利処理の問題でもありません。たとえ、購入後のダウンロード制限があったとしても、その制約を上回る付加価値やサービスが提供できるのであれば、クリアできることだと考えています。

 

私たちは、HTML5マガジンのマイクロコンテンツ・マネタイズの1つとして、記事単位の収益化を進めていますが、電子書籍フォーマットで販売する場合、利用するストアによっては「将来、読めなくなる可能性」があることを提示する予定です。ストア名は出しませんが、DRMが適用されている電子書籍と、適用されていない電子書籍があり、各々のメリット、デメリットを解説したページを用意したいと思っています。つまり、判断は購入者に委ねる、という方針です。

 

過去のエピソード:

 

 

投稿日:2014年1月21日

 

 

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