第5回 読者を探し、読者の求める「本」をつくる「アジャイル開発+リーン手法」に学ぶ
Non-Programmer’s WebDesign Story Episode 5 :
ウェブキャストシーズン2「ノンプログラマーズ・ウェブデザイン」のビジネス編です。現在進行中のウェブキャストをベースにした記事コンテンツとして掲載しています。週一回ですと、ウェブキャストに追いつかないため、他の連載記事よりも更新の頻度を高めていきたいと思います。
紙面上では、要点をおさえながら、できるだけ初心者でも理解できるように解説していきます。
従来の販促から、読者の求める「本」をつくるソリューションへ
昨年は電子出版物の販促についての相談数がプロダクションワーク(電子書籍の制作など技術面)を超え、さまざまな試行錯誤を繰り返すことになりました。それまでは、EPUB 3やKindleフォーマットによる電子書籍の表現やワークフローの構築などを専門にやっていましたので、電子書籍の効果的なプロモーションなど、具体的に何をやればよいのか知る由もありません。
ウェブ上の告知はほんとに大変です。たとえ毎日、TwitterやFacebookで情報を流しても銀の弾丸にはなり得ません。運良く著名な方に広めてもらえる可能性もありますが、本を出すたびに期待することはできないでしょう。「本を読みたい」「本について語りたい」という人たちが、たくさん集まる読書コミュニティなどで紹介されることが重要で「Goodreads」のような場が必要です。
ただ、マーケターが集まるMLなどでは「友人知人から勧められて買っても大半は本棚で眠るだけ」、「SNSで「本を買った」と公表して終わる」、「実際に読まれなければバイラルもそこで止まる」といった意見も多く、読書コミュニティだけに頼っても効果は限定的だと考えられています。
たしかに、「本を読む・語る」ではなく、「自分も本を買った」ことの表明だけでは、SNSで一瞬にして消費され、終わってしまいます。「Goodreads」などは、本について語り合う場として整備されており、引用の共有なども、訪れるユーザーの楽しみの一つになっています。
最も理想的な形は、著者のファンクラブとして機能する「プライベートコミュニティ」です。
「プライベートコミュニティ」は、現在進行中の「マガジン」プロジェクトでは最重要課題になりました。
参考:
電子出版に関わって4年、次のステージがやっと見えてきた
従来の枠組みの中で販促のアイデアを出し合っていても限界がありますので、新規事業開発のレベルにまで上げて仕切り直しを図ったのです。要するに「読者を探し、読者の求める「本」をつくる」ソリューションとして考えていくわけです。
書籍についても、ファンクラブが成立する著者などは限られますので、従来のやり方から離れ、一つのソリューションとして捉えていく必要があると判断しました。
「Lean Startup」方法論を出版に適用する
従来の本のプロモーションから、読者の求める「本」をつくるソリューション開発という視点に変えたことで、今まで視界に入ってこなかった貴重なヒントを得ることができました。特に(2012年頃から実践するスタートアップが増えている)「Lean Startup」という方法論を出版に適用した事例が見つかり、「やっぱり、こういう方法しかないのか」とあらためて痛感。「Lean Startup」の考え方は、今回のプロジェクトの重要な基盤になっています。
「Lean Startup」については、2011年頃から知られるようになり、国内では2011年11月に開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Fall」にて、「Lean Startup Camp Tokyo」が開催されており、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんやUXコンサルティングで有名なAdaptive Path社のギャレット・ジェシー・ジェームス(Jesse James Garrett)氏、Lotus Notesの開発者として知られているレイ・オジー(Ray Ozzie)氏など、そうそうたる面々が「Lean Startup」をテーマに熱く語っていました。
このカンファレンスの様子は、Togetterにまとめられており、今でも閲覧することができます。
また、オライリーメディア(O’Reilly Media)でも、2012年頃から何度も「Lean Startup」関連のウェブキャストを配信しており、CEOのティム・オライリー(Tim O’Reilly)氏も積極的に啓蒙しています。
Better Product Definition with Lean UX and Design Thinking
「Lean UX」の著者で、UXデザイナーのジェフ・ゴッヘルフ(Jeff Gothelf)氏とエリック・リース(Eric Ries)氏によるウェブキャスト
オライリーメディアがピアソン(Pearson)と共同でサービスを提供している「Safari Books Online」には、執筆途中の本が読める「Rough Cuts」が含まれていますが、これは先行公開が主たる目的ではなく、アーリーアダプターである読者から得られる貴重なフィードバックが、著者(および出版社)にとっての大きなメリットになっています。「Lean Startup」におけるCustomer Development(顧客開発)の実践といえます。
現在、Safari Books Onlineには(執筆中の)「Lean Startup」関連書籍が7冊ほど公開されている
「Rough Cuts」は、2006年1月23日から試験運用を開始しています。ソフトウェア開発のオープンベータテストを「書籍」に適用したオライリーの先進的な試みに驚かされます。
成功のための特効薬はない
起業家のためのスタートアップ方法論というと、出版の仕事とは結びつかないと思われるかもしれませんが、今回のプロジェクトのきっかけになった「Running Lean」(※リンク先は音声あり)の著者であるアッシュ・マウリャ(Ash Maurya)氏は、自身の電子書籍でこの体系的なプロセスを実践して、多くの読者を獲得しています。
下のスクリーンショットは、アッシュ・マウリャ氏が、2010年3月に公開した本のタイトルと簡単な目次しかない(予告用の)ランディングページです。その後、ワークショップなどを開催しながら事前購入の受け付けを開始し、同年10月から2週間ごとに更新、翌年(2011年)の2月に本が完成します。
アッシュ・マウリャ氏のYouTubeチャンネルには、「Running Lean」に関するビデオが多数公開されている。
私の過去出版した書籍(50冊ほど)の中で、増刷の多かったものは、例外なくマウリャ氏と同じことをやっていました。特に増刷の多かった「XHTMLマークアップ&スタイルシート リフォームデザインガイドブック」(2005年/ソシム社)などは、今思えば、Safari Books Onlineの「Rough Cuts」そのものですし、「Running Lean」で解説されている仮説・検証、ピボット(方向性を変更していくこと)を繰り返しながら、書いた本です。
執筆しながら、進捗をブログで公開し、イベントなどで意見を聞き、本の構成を変更しながら作業を進めていました。原稿がどんどん変化していくので、担当の編集者の方には大変ご迷惑をおかけしました(売れたから良かったのですが)。
当時、本の進捗を公開していたブログ。イベントでも同内容の講演をおこない、参加者から意見を聞いた。
このプロセスを知って、「なるほど、そういうことか〜」とあっさり納得しました。複雑に絡まった糸がほぐれた瞬間です。と同時に、なぜ他の書籍で実行しなかったのだろうと悔やみましたが、仕組みを理解していなかったのですからしかたないことです。
注意しなければいけないのは、「Running Lean」も(ベースになった)「Lean Startup」にも「こうすれば必ず成功する」とは一言も書いていないことです。この方法論で成功したケーススタディとして、DropboxやWealthfront、Grockit、Aardvarkなど多くのスタートアップが紹介されていますが、端的に言えば、これらは「改善を繰り返し、リソースを使い切る前に、最良のプランを見つけられた」だけです。
継続的な仮説・検証・改善、学習(フィードバックループと言います)の実践力は身につきますが、成功のための特効薬ではないことを理解しておく必要があります。良いものを作れば受け入れられるといった独断的な「信念」は排除し、「事実の積み重ね」で裏付けていくわけです。
お金をかけず、今すぐ使えるものを利用して、直ちに開始する
今回のウェブキャストは、一方的に教授するタイプのものでなく、ワークショップが中心になっています。実験的な要素が多いため、アーカイブは難しいと思い、こちらのサイトでも平行して紙面掲載を始めることにしました。
次回(といってもすぐ掲載します)からは、もう少し具体的な内容になりますが、まずは「これから企画を開始する書籍」を対象にして進めていきます。
A. すでに販売されている書籍
B. これから販売する書籍
C. これから執筆を開始する書籍
D. これから企画を開始する書籍
編集者や著者、プライベートコミュニティを模索しているブロガーやアーティストなどを対象とし、「Running Lean」の構成要素でもあるBootstrapping(ブートストラッピング)からスタートします。Bootstrappingとは、自己資金で始めるということですが、ここでは「お金をかけず、今すぐ使えるものを利用して、直ちに開始する」といった意味です。迅速かつ小さく始めていくのがポイントです。
今回は、専門用語も多く難解な内容に思えますが、やることは至ってシンプルで、特別な技術(HTMLなど)も必要ありませんので、前述した方々だけではなく、学生さんなどにも声をかけました。
こちらの紙面掲載は、ダイジェストになってしまいますが、可能なかぎり要点をおさえていきたいと思います。
次の更新は、明日になります。
※ノンプログラマーズ・ウェブデザインの連載記事としては第5回ですが、正確にはビジネス編の第1回になりますので、記事タイトルからは「ノンプログラマーズ・ウェブデザイン」を外しています。
過去の記事:
- 第1回 Adobe Muse CCの基本を6時間で完全習得する!
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投稿日:2014年2月14日
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