HTML5パブリッシングマガジン開発日誌 Vol.02/ウェブと電子出版の今後について考えてみませんか?

2014年3月14日「ウェブと電子出版の今後について考えてみませんか?」

HTML5 Publishing Magazine Development Diary 2 :
昨日から開始した「HTML5パブリッシングマガジン開発日誌」の2日目です。ウェブアプリ版のテストが終了するまで続きますが、これがメインコンテンツにならないように頑張ります…
今日は、今月26日に開催する発表会について書きたいと思います。

 

以下の文は、昨年の10月31日にウェブキャストのランディングページ上で公開した電子書籍のイントロダクションです。

電子書籍のダウンロード:

 

昨年12月、中学生の皆さんに、子どもの頃に読んだ本を紹介する機会がありました。
私がお奨めしたのは「やかまし村の子どもたち」というAstrid Lindgren(アストリッド・リンドグレーン)の有名な児童書。1965年の作品です。
彼女の本は「長くつ下のピッピ」や「名探偵カッレくん」など、人気作品が多く、世界中の子どもたちに読まれています。「やかまし村の子どもたち」は、小学生のときに何度も繰り返し読み、挿絵を模写したり、自分だけのオリジナルストーリーも考えるなど、この作品の世界観にたっぷり浸りました。同シリーズの「やかまし村はいつもにぎやか」、「やかまし村の春・夏・秋・冬」も同様です。

 

先日、この「やかまし村の子どもたち」を読んでくれた中学生の感想文を読ませていただきましたが、思わず懐かしさがこみ上げ、小学生の頃の風景がよみがえってきました。不思議ですね、学校の図書館、昔住んでいた家の居間、当時の友だちの顔など、次々と頭の中に登場してきます。大半は(他の思い出と混ざった)間違った記憶なのかもしれませんが、タイムスリップした気分です。

 

今の子どもは「本」以外の娯楽がたくさんありますが、「本」から受ける影響は変わらないし、想像力、空想力を養う重要なコンテンツなのだと再認識しました。私は、書籍の電子化を積極的に推進していますが、不利益を被るようなことが起きないように、常に仕組み全体を俯瞰するように心がけています。
特に児童書に関しては、特定の環境でしか読めなかったり、準備にコンテンツ以外のお金がかかるといった障害を可能なかぎり無くせるようにアイデアを出していきたいと思っています。

 

子どもの頃に読んだ本を紹介したときのエピソードですが、何十年も、ずっと読み継がれていく本って「すごいな」とあらためて感じました。

自分の著作は、大半がアプリケーションソフトやウェブ関連の解説書なので、寿命が短いのです。親から子、子から孫へ読み継がれるタイプの本ではありません。一冊くらいは、長寿本を書いてみたいですね。小説は無理としても、絵本なら挑戦できるかも。

 

時代とともに消えていく電子書籍たち

下のスクリーンショットは、1996年に買った電子ブック「ルル(LE LIVRE de LULU)」です。日本語版は、Voyager Japanから発売されていました。この電子ブックはお気に入りの一つでしたが、漢字Talk 7のMacか、Windows 95のPCがないと読むことができません。個人の記録として、スクリーンショットは撮ってありますが、動かせないのはほんと残念です。

1996年に購入したCD-ROM「ルル」のスクリーンショット

 

主人公のルルは、実写で合成されていて、美しいイラストレーションの中で演技をします。
2010年にも同種のインタラクティブブックが大量にリリースされましたが、90年代の作品と比較して、特に新規性は感じられませんでした。

紙を忠実に再現したレプリカ[じっくり読書したい人]とゲーム[遊びたい人]のハイブリッドですから、どっちつかずになってしまい、(リリースすればそれなりに話題にはなるのですが)なかなかブレイクしない領域です。

1996年に購入したCD-ROM「ルル」のスクリーンショット

 

当時買った「ルル(LE LIVRE de LULU)」はもう読めませんが、1998年頃に作られたFlash(フラッシュ)の電子ブックは今でも読めるんです。この頃は、Macromedia(マクロメディア)の技術で、アプリケーションはFlash 3ですね。15年以上経ってますが、現在のウェブブラウザで問題なく読めます。

一方、アプリは短命です。2010年にApp Storeで買った電子ブック、もう読めないものがあります。たった3年で寿命を迎えてしまいました。古いOSのまま保管しているiPhone 3GSの中では、まだ生きていますが、ハードウェアの寿命=電子ブックの寿命なので、読めなくなるのは時間の問題。

 

今後のFlashはどうなるかわかりませんが、ウェブの標準技術でつくられたものは、そう簡単に死なないだろうと思っています。CSS3やJavaScriptで作り込んでいても、コアコンテンツが「HTML」だと安心感があります。
※FlashについてはHTML5に変換するツールも出てきましたので、あまり心配する必要はないかもしれません。

 

アーカイブの方法を模索

90年代につくられた電子ブックは、資料価値が高く、アーカイブしておきたいのですが、動画や音声などを含む作品はスクリーンショットだけでは不十分なので「映像で撮る」という方法もあります。

1998年に発売された電子ブック(デジタルコミック)
「日野日出志 恐怖の招待状」より

 

 

今も昔も変わらない「デジタル化された未来の本」のイメージ

下図は、2010年に作成した年表です。1965年から2009年までの44年をまとめています。

 

電子出版とウェブの年表

 ※クリックすると大きな画像が表示されます

 

20年前(1993年)に、NECが「デジタルブック」という読書専用端末を出していますが、リフローと固定レイアウトがあって、文字の拡大や辞書、ハイライト機能など、現在のKindleと端末の基本コンセプトは変わりません。「これで、もう本の置き場所に困ることはなくなる」と、20年前から言われていました。

翌年の1994年には、PC-VAN接続キットも発売され(パソコン通信の時代です!)、読書専用端末をネットにつなげることも可能でした。

 

1993年に発売されたNECデジタルブックは、電子書籍の利点といわれる機能をすでに実現していた

2013年3月のJEPAセミナーの講演で使用したスライド資料から

 

1968年に公開されたスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」にも、iPadそっくりのスレートデバイスが出てきますが(食事しながらタブレットでニュースを見ているシーン)、「未来の本」のイメージ、ハードウェアの外観や使い方などは、今も昔も、それほど変わりませんよね。

 

 

長持ちする永続性の高いデータ

下図は、マークアップ言語の歴史を表した図(2010年10月に作成)ですが、1969年のGML(Generalized Markup Language)から「44年」以上の歴史があります。

HTMLは、IETFのHTML 1.0が登場してから20年です。古い仕様を上書きしませんので、例えば、1997年に勧告されたHTML 3.2でつくられたウェブページであっても、現在のウェブブラウザで問題なく閲覧することができます。

マークアップ言語の歴史を表した図
現在普及しているEPUBなどの電子書籍フォーマットは、HTMLやXMLを採用しており、タグ付けされた(マークアップされた)構造化ドキュメントの仕様になっています。長持ちする永続性の高いデータだということがわかります。
※ただし、DRMなどの特別な技術が適用されているデータは、特定の環境に依存した状態ですから、アプリと同様のデメリットを抱えています。

 

 

今やっているHTML5パブリッシングマガジンは、「ウェブマガジンの再定義」と表現していますが、要するに新しいことに挑戦するための実験プロジェクトです。過去の電子出版の歴史にまだ記されていないことをやりたい。

昨日の記事でも書きましたが、メタデータや構造化データを組み込むことで、ウェブサービスや検索エンジンに利用されやすいコンテンツにしたり(書物の解体)、トランスメディア的な発想で、続きのストーリーを他のメディアやリアルイベントで展開したり(他媒体との融合)、「BOOK」というフォーマットにこだわらない、さまざまなアイデアを具現化していきたいと思っています。

 

数年前まではアプリでしか実現できなかった表現も、HTML5やCSSなどのウェブ標準技術、ライトウェイトなスクリプト言語(JavaScript)だけで十分可能になってきました。さらに、これらの標準技術は、特定のOSやハードウェアに依存しないため、短命なコンテンツになりにくい。

わざわざ面倒なことをやろうという話ですから、オライリーメディアなどのリーディングカンパニーが推進しているワンソース・マルチユースとは逆方向の試みになるかもしれません。ただ、自動化しにくいだけに、私たちだけの独自価値を明確に提示できれば、結果的にテクノロジーの進化に強い、競争力の高いチームになる可能性があります(実はここに期待しています)。

 

 

ウェブと電子出版の今後について考えてみませんか?

今回、プロジェクトも2ヵ月以上経過し、一度まとめておきたいと思い、プレゼンテーションの場を企画しました(昨年の11月に開催した発表会に近いセミナーになります)。

26日(水)午後7時から、都内で開催(調整中ですが杉並区が有望)。
「読者を探し確実に届ける仕組みと、電子出版専門の出版社をつくる方法(仮)」と題して、今までやってきたことをプレゼンテーションしたいと思います。

※月曜日から申込開始する予定です。詳細は明日、明後日の投稿で。

 

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今回は「どうやって作成したコンテンツを知らせるか」といった、プロモーションやマーケティングの要素が加わっていますので、ちょっと複雑です。
ここで取り上げてきた、リーン・スタートアップやコンテンツマーケティング、セマンティックデータ組み込み、ランディングページの活用など、電子出版との関連性がわかりづらいと思いますので、時間をかけてじっくりお話したいと思います。

レポート(ドキュメント)ではなく、こういったイベント化することで、デモ素材なども作成しなければいけませんので、プロジェクトをブラッシュアップするよい機会になると期待しています(毎度のことながら準備は大変なのですが)。

それでは、また明日。

 

 

HTML5パブリッシングマガジン開発日誌:

 

 

投稿日:2014年3月14日

 

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